登山の世界がよーくわかる-常識とあれこれ-
YAMA BOOKS18 山登りでも始めてみようか-登山の世界がよーくわかる-
発行/株式会社 山と渓谷社
文/岩崎元郎 絵/中尾雄吉 より引用
山登りがトレンディ登山靴のイラスト
山マーク山登りが3Kだなんて誤解
 ピロピロピロ・・・机の上の電話が鳴ります。昔はリーンリーンだったのにね。もっとも音を言葉で表現するのは難しいものです。同じ犬なのに、英語ではバウワウとほえるわけだし、ネパールの雄鶏はクッククッカーと刻を告げます。ネパールの古い街道、ポカラからジョムソンに向かう道を歩いているとき、日本じゃコケコッコーと鳴くんだよ、と話したら、ぼくの周囲にいたポーターたちが大笑いしてました。

 ピロピロピロ・・・「はい無名山塾と遠足倶楽部の撰事務所です」「きのう大雪へ参加を申し込んだ坪井ですが、実は家族から猛反対を受けまして、参加をあきらめざるをえないんです。スミマセン」「それは残念ですね、またの機会ということで」、ガチャン(実際はこんな音はしませんね)。
 坪井さんのご家族がどういう理由で反対されたのか定かではありませんが、一般的な反対の理由に山登りは3K、というものがあります。3K=苦しい、汚い、危険、だから山登りはやめろ、とくるんですね。しかしこれはとんでもない誤解、ぬれぎぬというものです。

 苦しいと汚いはちょっと置いといて、家族が反対する最大の理由、山登りの危険について考えてみましょう。登山は本当に危険なのでしょうか。ぼくの考えは否です。
 はっきりいって危険な登山もあります。世界の最高峰エベレスト(8848メートル.)の頂上に酸素ボンベを使用することなく登頂する、あるいはジェットストリームの吹きすさぶ厳冬のエベレストにチャレンジする、そうした登山を安全とはいえません。しかし、ぼくたちがやっている登山、今この本をてにしてくれているあなたが登ろうとしている山、ぼくは安全だといいきっても過言ではないと思います。
 
 何年か前に、ぼくは沢登りをしていてころんで足首を骨折しました。そういうと、それみたことか、山は危険じゃないか、と指摘する人がいらっしゃいますが、ちょっと待ってください。
 
 ぼくの友人で足首を骨折した人がいます。歩道を歩いていて縁石を踏みはずして転倒したのが原因ですが、だれも歩道が危険だなんて、いいやしません。つい最近、AT車の誤操作で、幼児2人を圧死させてしまった若い母親の事故が新聞に載っていました。彼女にはお気の毒にと同情するほか、なか術もありませんが、うっかりミス、これは誰にでもあることではありませんか。
 
 夏の白馬岳や尾瀬、ゴールデンウィークの燕岳あたりにしても、ぼくたちがやろうとしているレベルの山登りで起こっている事故のほとんどは、人間の側のうっかりミスに原因が求められます。山それ自体が危ないわけでは決してないと思うのです。

 井上靖の小説「氷壁」を例に出すまでもなく、登山の事故というのは、一般の人にはドラマチックなものと考えられているフシがあります。で、新聞報道される場合が多いんですね。海、川、プールなどでの溺死などのほうがずっと多いのに、ニュースバリューがないというだけで報道されませんから、一般の人には山でばっかり事故が発生する、山は危険だということになってしまっているようです。

 家族の反対がもし山は危険だからという理由だったら、ぜひとも反論し、家族を説得して大雪へ参加してくださいね、坪井さん。

 

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