登山の世界がよーくわかる-常識とあれこれ-
YAMA BOOKS18 山登りでも始めてみようか-登山の世界がよーくわかる-
発行/株式会社 山と渓谷社
文/岩崎元郎 絵/中尾雄吉 より引用
山登りがトレンディ登山靴のイラスト
山マークそれだけの価値が山登りにはある
 ピロピロピロ・・・「はい、岩崎です」。事務所兼自宅なので、夜8時以降の電話には個人名で登場しています。「あのー山へ行きたいんですが」と尻上がりのちょっと高い声。「4月の芝倉沢はまだ参加できますか」「ピッケル&アイゼンと友だちになる会ですね、初心者のための企画ですから、ぜひ参加してください。道具は持ってますか」「はい、用意してゆきます」

 山崎恭子、20ン歳、独身OL。このような電話で、恭ちゃんはコンタクトしてきました。夕方の電車に乗るというその日は朝から雨、翌日の天気予報も好ましいものではありません。
 
 ピロピロピロ・・・「はい、撰事務所です。「山崎ですが、あしたの講習会はどうなるんでしょう」「はい、雨天決行です」「大丈夫でしょうか」「ぼくは天気予報がどうであれ、現地までは必ず行く主義なんです。台風が来るったって行っちゃうんですよ。もしかしたらそれるかもしれないでしょ。大好きな山を天気予報が悪いというだけの理由で中止にすることなどできないんです。ましてあしたはトレーニングですしね。ぼくの主義を押しつけるわけにはいかないので、参加する、しないは山崎さんの自由にしてください。キャンセル料は不要です。水上駅の改札口で会えなかったら、不参加と考えますから」
      
 自己紹介がおそくなりましたが、ぼくは岩登り、沢登り、雪山登山のための基本的な技術を学んでいただく登山学校として"無名山塾"と、一般的な登山コースを対象にした実技講習会"山の遠足(遠足倶楽部)とを主宰しています。
 たかが山歩きと思うかもしれませんが、実は歩くことも技術です。ですから、これから山登りを始めようと言う人がノウハウを学ぶ場としては、よく機能していると自負しています。

 メジャーなところでは長谷川恒男さんが専務理事を担当されていた(社)日本アルパインガイド協会や、(社)日本山岳協会や都岳連などがあって、各種ガイド登山や講習登山が企画されています。1990年発足した日本山岳ガイド連盟(理事長・降籏義道氏)でもそうした活動を展開することは予想されます。安全登山と効率的な技術習得を考えると、もっと利用されてよい場だと思います。

 閑話休題。水上駅の改札口には恭ちゃんらしい姿は発見できませんでした。彼女との電話のやりとりを思い出して、不参加にしたんだなと考えて、頭の中に書かれている名前をさっと消します。目の前にいる30人近い会員と講習生を土合まで送り出すという仕事があるからです。会員の車とタクシーとに分乗してもらい、視界が広がったなと思ったら目の前に女の子が1人、右手に秀山荘の紙袋、左手にICI石井スポーツの紙袋をぶら下げて立っています。ゲッ・・・・。
 
 恭ちゃんは去年の秋にひとりでスイスに旅したそうです。それまで山に登ったことはないのに、目の前に聳える白い峰々を登りたいという強い衝動にかられたそうです。でも、ツーリストでしかない恭ちゃんは、そこから一歩も前に出ることができません。いつか絶対に登ってやると堅く心に誓った恭ちゃんは、きのうまでのキャピキャピOLの生活を投げ捨てて、いまぼくの目の前に立っているというわけです。

 
それだけの価値が登山にあると見抜いた恭ちゃんに拍手。


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